(40)ユミル

壁の穴が見つからず、ウトガルド城跡で夜を明かすことにした104期の面々。夜更けにも関わらず獣の巨人が率いる巨人の群れの襲撃を受けます。エレンやミカサら主力とは別行動で戦力を欠き、立体機動装置も持たない状態でライナーたちは善戦しますが巨人の波状攻撃に徐々に疲弊して行きます・・・。というのが前号までの部分でした。

 


進撃の巨人 第40話 ユミル (別冊少年マガジン2013年1月号掲載)

 

城の見張り塔を使って群がる巨人を数えきれないほど切り伏せたナナバとゲルガーですが、立体起動装置のガスも切れ剣の刃も使いきってしまいます。彼らが力尽き巨人の群れに飲み込まれる様を塔の頂上から眺めることしかできない104期たち。どう見ても状況を打開する方法が見当たりません。

このまま黙って死を待つしかないのか・・・クリスタはせめて戦って死にたいと口にしますが、ユミルはそんなクリスタに意外なほど厳しく突っ込みます。曰く

「お前はコニーや上官方とは違うだろ!」

「本気で死にたくないって思ってない・・・」

「いつも・・・どうやって死んだら褒めてもらえるのかばっかり考えてただろ?」

そういってフラッシュバックしたのは調査兵団の勧誘演説に応じて入団を決めた時のクリスタの顔。泣きながらも口元には恍惚とした笑みがうっすら浮かんでいます。変態だ!

ユミルはクリスタに昔の約束を思い出せと言います。「約束」とは・・・?ここから回想シーン。

 


訓練兵時代、ユミル・クリスタ・ダズの三人が吹雪の雪山で遭難した時のこと。ダズはすでに倒れて虫の息、それをソリに乗せてクリスタが引きます。このままだと3人とも死ぬからダズは置いていくべきだと主張するユミルに対し、クリスタはユミルに先にいけと促します。ユミルはクリスタが本気でダズを助けようと思っていないと指摘。もしどうしても彼を助けたいならユミルに助力を乞うてソリを引いてもらうべきなのに、彼女はそうしない。それは自分がこのまま女神クリスタ様として伝説を残したいからだ。だからユミルに先に行って助かるように急かすのだろうと。自分がいい子だと思われたいがためにダズを犠牲にして自殺するつもりだと。

クリスタはこれまで作中で徹底して「いい子」でした。人が次々と凄惨な死に方をして行く目を覆いたくなるような窮状にあっても、彼女の献身やいたわりがほんの一時でも作品に温かい安らぎを与えてくれる・・・そんな役どころだったのですが、その裏にはこういった心理的背景があり、半ば演技だったというわけです。実際、作中ではライナーやアルミンら男性陣から「女神」「結婚したい」などと常に高評価を得ていますので、彼女の思惑は概ね上手く運んでいたことになります。ではなぜクリスタは死にたがっているのか・・・?

ユミルはその事情までも知っていました。

「お前だろ?」「家から追い出された妾の子ってのは・・・」

 

ここから更にユミルの過去への回想。内地の教会で盗み聞いた神職同士の噂話によると、偉いとこの跡取りの位置にいた少女が後継者争いで殺されそうになったが、名を変えて一般人として生きるなら見逃してやるという判断で訓練兵に追いやられた。それを聞いてユミルは自分も訓練兵に志願し、そこでクリスタに目星をつけ一方的に偏愛するようになったというわけです。しかしなぜユミルはそこまでしたのでしょうか。

「さぁ?似てたからかもな・・・」

ユミルもはっきりとした理由は答えられません。曖昧な返答に終始しますが、クリスタに自分と友達になりたかったのかと聞かれると図星だったようでムキになって否定。勢いづいたユミルはここから非常に重要な独白を始めます。

 

 

「偶然にも第二の人生を得ることができてな 私は生まれ変わった!」

「だがその際に元の名前を偽ったりはしていない! ユミルとして生まれたことを否定したら負けなんだよ!」

「私はこの名前のままでイカした人生を送ってやる それが私の人生の復讐なんだよ!!」

 

 

こう考えるユミルは名を変えてウジウジ死にたがっているクリスタを見ていると腹が立つこともあるのでしょう、彼女を叱咤しますが・・・彼女たちを取り巻く雪山の環境は絶望的。ここから3人とも助かる方法なんて無いでしょとクリスタ。ユミルが言った通り最初から生き残る気がなかったようです。

すぐ近くには断崖絶壁があり、その下に基地の明かりが見えます。この崖を下りることができれば助かる。ダズを崖から落として運が良ければ助かると提案するユミル。止めようとするクリスタ。ほんの数瞬目を離した隙にユミルとダズはクリスタの視界から消えていました。崖を迂回し徒歩で基地までたどり着いたクリスタが見たのは、敷地の入り口で待っているユミル。そして施設で治療を受けるダズの姿でした。何十メートルもの崖を、ロープもなしにどうやって・・・?

当然の疑問ですね。ユミルはいつかその秘密を明かす時が来る、その時クリスタは本名を名乗れという「約束」をします。一方的ですが。

そして時は現在。ユミルはその「約束」を思い出せと言っています。自分が崖を越えた能力の秘密を明かす時、クリスタは本当の名前を取り戻せ・・・!

 


見張り塔から眺める夜明け。最後の日の出をしんみり眺めるコニーから、ユミルはこれで戦うと言ってナイフを借り受けます。

クリスタに胸を張って生きろと伝えると、ユミルは静止を振りきって塔の頂上から巨人の群れへダイブ!!

 

「クリスタ・・・私もだ」

「自分なんて生まれてこなければ良かったと思ってた」

「ただ存在するだけで世界に憎まれたんだ」

「私は・・・大勢の人の幸せのために死んであげた」

「でも その時に心から願ったことがある」

「もし生まれ変わることができたなら・・・ 今度は自分のためだけに生きたいと・・・」

「そう・・・強く願った」

 

落下しながらナイフで自分の手を切り裂くユミル。そして・・・!

 

 

激しい発光とともに出現した、これまで見たことのない新たな巨人!!

ユミルも巨人化能力の持ち主でした。つい最近まで名無しのモブ扱いで存在感が希薄だったキャラとは思えない活躍ぶりに仰天。ストーリー構成に伏線を埋め込む巧みさが光ります。

見張り塔に取り付く巨人のうなじを食い破る巨人ユミル。エレンやアニのような目の光がなく、獣の巨人のような目立つ特徴も見当たりませんね。ロン毛の黒髪で落ち武者のような顔つきですが普通の巨人とそれほど変わりません。

 

巨人に変化したユミルを呆然と見つめるコニーとクリスタですが、ライナーとベルトルトはそれとは違った表情を浮かべていました。目の前に現れたのは、かつて幼い日に自分たちを襲い目の前で家族(?)を食い殺した巨人そのものだったからです。

「あ あの巨人は・・・ あの時の・・・」

驚き目を見開く二人。次号へ続く!

 


【気づいたことメモ】

今回はユミルとクリスタの持つ謎を解く上で非常に興味深い内容が含まれています。

 

■クリスタ

・偉い血筋の直系後継者。ただし妾の子で不貞とされ家を追われており、偽名を使っている。

・訓練兵として入団させられたのは放っておけばいずれ死んでくれるだろうという周囲の思惑?

・生に意味を見出せず、いかに美しく死ぬかを無意識に考えている。それが結果的に己を顧みない献身的ないい子という印象になる。

 

■ユミル

・訓練兵になるまで内地にいたが、盗みを働く必要があるほど貧しい暮らし

・クリスタの噂(後継者争いで家を追われた少女が訓練兵団に)を聞いて自分も訓練兵団へ

・その後確証はないもののクリスタに目星をつけて粘着していた(友達になりたかった?)

・「ユミルとして生まれた」・・・ユミルは姓?あるいは襲名?巨人に関する役割を担う一族か。

クリスタと同様に特別な血筋や家柄の出自で、缶詰の字が読めたのも海水魚のニシンを知っているのも「ユミル」として特殊な教育や環境で育ったためと思われる。

・「偶然にも第二の人生を得ることができた」・・・気になるのは「偶然にも」の部分。誰かの思惑や計算で追い出されたのではなく、本来死んでしかるべきだったところをたまたま生き永らえたような言い方です。そして教会で盗みを働いていたと思われることから本当に何の後ろ盾もなく一人で生きていたのでしょう。巨人の力を利用してどこかの勢力についていたというようなことはなさそう。

・「ただ存在するだけで世界に憎まれた」「大勢の人の幸せのために死んであげた」・・・「ユミル」の血筋の人間が皆憎まれているのか、ユミル個人だけが憎まれているのか。死んであげたというのは社会的に抹殺されたことを指すのか、生物的に殺された(そして偶然にも生きながらえた)のか。

 

■二人の関係

37話の時点で、ユミルがクリスタに執着する理由は「クリスタの生まれた家に関係している」ことしか明かされていませんでした。

そのためユミルはクリスタを守るような使命を持っていて、職務としてお守りに就いているエージェントではないかと考えたのですが、これは見当違い。ユミルは現在なんらかの組織の後ろ盾があるわけではなく、生まれた家柄や境遇が自分と似ていてシンパシーを感じ、クリスタと友達になりたかったというのが行動理由のようです。ただそれだけの理由で同期の成績トップ10の座を譲るなど終始クリスタに尽くすのは少々不自然とも思えますが・・・。クリスタが憲兵団に行ったら自分はクリスタと離れちゃいますしね。ユミルの過去や出自が明かされることでその謎も解けるのでしょうか。

 

■新たな謎

・ユミルの巨人化能力の由来・・・追い詰められた状況でもスムーズに変身できること、巨人化後も正確に敵巨人のうなじを攻撃していることなどから、相当に練度の高い巨人であることがわかります。雪山の遭難時にも巨人化して崖を越えたはずなので、何年も前の時点でその能力をコントロールできていたことになります。ユミルがこの後無事に生還して人間に戻ることができれば彼女の口から様々な情報が手に入ると思われますが、遺言めいたセリフとともにダイブしてますのでちょっと怪しい感じです。巨人の数が多すぎる上、戦闘力が未知数の獣の巨人も後ろに控えていますからね。主力部隊の合流が間に合うかどうか。

またライナーとベルトルトの村を襲った巨人と巨人ユミルが酷似している点。もし本人が自分の意志で人を襲っていたとすると救いがなさすぎるので、何者かの命令で操作されていたのではないかと考えます。そういった呪縛ゆえにユミルは憎まれ、だから死んであげた。そして偶然生きのびたことで呪縛から解かれ、自分の意志で生きることができるようになった。城に群がる巨人はユミルが片付けるものの、獣の巨人の操作によって拘束され104期に襲いかかる。過去の記憶が蘇り激高するライナーとベルトルト、制止しようとするクリスタとの対立が生まれる。特に普段冷静なベルトルトの方が危ない予感がします。・・・例によって何の根拠もない妄想ですけどね。

 

なお今月号では進撃の巨人のテレビアニメ化が発表されました。

http://www.shingeki.tv/

サブコンテンツ

【PR】 ヒゲ脱毛 フケ対策 ペン習字

このページの先頭へ