(35)獣の巨人

※別冊少年マガジン掲載時にはサブタイトルが「光り輝く少年の瞳」でしたが、コミックスでは「獣の巨人」に改訂されています。

 

「巨人側」に通じている人間がいるのではないかと嫌疑をかけられつつもそうとは知らされず、非武装で監視をつけられていた104期卒業生たち。

エレンやミカサら調査兵団の主力は不在です。

 

そこへ前触れもなく巨人の集団が近づきつつありました。

壁に扉のある特別区が襲撃されたのならとっくにその事が内地にも伝わっているはずなので、巨人はどこか別の場所から侵入してきていると思われます。

どこからどうやって巨人が入ってきたのか、壁は壊されているのか、ここからそれを知る手段はありません。

 

104期卒業生たちを監視していたミケとナナバは卒業生たちに普段着のままでの脱出を促すと、まだ負けていないと自分たちを鼓舞して戦闘体勢に移行します。

巨人の侵入経路や戦力規模が不明な現状で、彼らにできる主な任務は情報の伝達と避難誘導、そして壁の破損を確認することです。

 

心中穏やかでないのは皆同じですが、中でも動揺が激しいのはコニー。巨人が来た方向には彼の故郷の村があります。

彼は村で劣等生とバカにされ、それを見返すために兵士を志しました。

結果トップ10入りで卒業し、特権階級である憲兵団になろうと思えばなれたわけです。

前回34話では抜け出して村の様子を見に行こうと計画していました。

 

南方向へ向かい壁の破損を確認する班の案内を任されたコニー。

ライナーとベルトルトもそれに同行を決め、悲壮な行軍は始まろうとしていました。

 

巨人9体の集団が接近してきたため各班は行動を開始。

ところが、いつもなら馬で振りきれるはずの巨人たちが一斉に・・・走り始めました。

その速度は馬をしのぎ、このままではすぐに追いつかれてしまいます。

 

ミケの判断は速く、自分ひとりが囮となって巨人を引き付けるつもりのようです。

これまであまり描かれていませんが彼はリヴァイにつぐ戦闘力を持つ分隊長。ちなみに体臭フェチです。

驚くべきことに、戦闘シーンが一コマも描かれないうちに5体を仕留めました。超人的な戦闘力。

 

残りは4体なのですが、その中に読者も目を疑うような姿の巨人が混ざっています。

サイズはミケの目測で17m以上、超大型を除けば最大級で、直立していながら脛まで届く異様に長い両腕を持ち、

そしてなんと肩から上と腕、下半身が体毛に覆われています。

一見すると巨大なオランウータンやテナガザル、これまでの巨人像とは一線を画した変わり種です。

仮に「猿巨人」と名づけましょう。

 

ミケは時間稼ぎは十分と判断し、屋根から指笛で馬を呼び脱出を試みます。

律儀な馬はどこからか主人の元へ駆け戻ってきますが、そこへ猿巨人が腕を伸ばして馬を片手で持ち上げます。

通常、巨人は人間以外の動物には興味を示すことはなく、行動習性は人を見つけて捕食すること、それのみです。

道具を使うことも組織的な行動をすることもなく、一直線に人間に近づき、捕まえて食べる。

それゆえに巨人の行動パターンは予測しやすく、戦力で劣る人類がなんとか抵抗してこられたのも巨人の愚鈍さによるところが大きいのです。

その反面、知性を持った女型の巨人との戦いではそのロジックが通じず、たった一体に調査兵団は壊滅的な損害を与えられました。

馬を掴んだ猿巨人。ミケと目が合います。この目は普通の巨人のものではありません。確実に意志が宿っています。

 

ミケに向かって馬を投げつける猿巨人。コントロールは正確。ミケが立っていた付近の屋根に直撃し転落。

この世界では馬は貴重品で、調査兵団が使う馬は庶民の生涯年収に匹敵するそうですから日本で言うと億クラスでしょうか。

巨人の目当ては人間なので殺される馬は多くはないのですが、知性のある巨人は最初に移動手段を潰してきます。

 

転落したミケは小型の巨人に捕まり、脚を噛み砕かれて絶叫。

武器は持ったままですが、とっさのことで反撃できなかったようです。

ああ、死んだな・・・と思ってページをめくると

 

「待った」

 

と声がかかった途端、ミケを捕まえた巨人は動きを止めます。

ミケは痛みに震えながらもまだ存命。

声の主は・・・猿巨人。

 

ミケの前にしゃがみ込みます。

一旦動きを止めたものの、すぐにまた咀嚼を再開した小型の巨人。

悲鳴を上げるミケを見た猿巨人は

「え?」「俺・・・今」「待てって言ったろ?」

そう言いつつ制止しようとして勢い余ったらしく、小型の巨人の頭を握りつぶしてしまいます。

結果的にミケの命は救われ、地面に落下。

 

そして猿巨人は・・・!

 

 

「その武器は何て言うんですか?」「腰につけた飛び回るやつ」

 

間違いなく、喋っています。

 

人類が巨人と会話を交わしたのは、記録上ではイルゼ・ラングナーのみ。

そのイルゼのケースも巨人が一方的に人語らしきものを発しただけで、厳密には会話でも問答でもありませんでした。

 

すでに一部の巨人の中には人間が入っていることは明らかになっているため、

そういうタイプの巨人なら喋っても不思議ではないのですがやはりインパクトはあります。

ミケもただ驚愕し圧倒されるばかりで、会話どころではなく押し黙りまっています。

 

「う~ん・・・同じ言語のはずなんだが・・・」「怯えてそれどころじゃないのか・・・」

「つーか・・・剣とか使ってんのか・・・」「やっぱ うなじにいるってことは知ってるんだね」

「まあいいや」「持って帰れば」

 

独り言の多い巨人ですが、有難いことに様々な情報を得ることができます。

 

・敬語を使っている

中身の人間は社会性を持っており、知らない人に対する礼儀や一般常識がある。

 

・立体起動装置を知らない

少なくともアニから情報提供を受けていないことが分かります。

もしかすると巨人側にも複数勢力があるのかもしれません。

 

・「同じ言語のはず」

普段は現人類と別の領域で活動しており、交流が少ないことを示唆しています。

アニを内部発生的な巨人とするなら、猿巨人は外来種なのでしょうか。

ここで思い出されるのは「進撃の巨人」には時間軸の移動を絡めた要素があるはず、という伏線。

「同じ言語のはず」というのは、誰と誰が同じ言語を使っているという意味なのでしょうか。

要するに「うちの村と隣村とでは同じはず」という横方向なのか、「過去/未来の人類も同じはず」という縦方向を指すのか…。

 

・「やっぱうなじに~」

巨人としての構造はエレンやアニと同じで、中に人間が入っていることは確定的。

ただし人類側の対抗策については無知なので、やはりアニとは通じていないと思われます。

 

・「持って帰る」

装置についてミケから聞き出すことはできなくても、もって帰ればなんとかなる、

すなわち巨人の拠点にはそれを理解したり調べたりできる施設や人員が存在することになります。

 

・巨人に人語で指示している

普通の巨人たちもある程度人語を理解できるようです。

 

猿巨人は指先でミケの立体起動装置をつまみあげると、背を向けて去ろうとします。

ミケは折れた脚でなおも闘志を失わず、剣を構えて気概を示しますが・・・

「待て」を解かれた残りの巨人が一斉にミケに襲いかかり、あえなく捕食。

意外なほど見苦しく泣き喚きながら巨人に蹂躙されていくのでした。

 

巨人の中に人間がいるということ自体は目新しくありませんが、

巨人にも複数の勢力がありそうだと推測できる、興味深い巨人の登場でした。

ちなみにエレンやミカサらの出番はありません。

 

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